「棚卸(たなおろし)」という言葉を良く耳にすると思いますが、実際何が行われているか理解していますか?
決算の時に必要なのは分かっているけど、なぜ必要なのか、決算にどう影響するのかも分からない...という人も多いかもしれません。
特に小売業の経営において在庫管理は非常に重要で、決算で予想外の結果にならないようにに、棚卸の必要性や重要性について理解を深めましょう!
1. 棚卸(たなおろし)とは?

棚卸とは、ある一定の日時点で残っている商品や製品の在庫、原材料等を実際に数え、その数と金額を算出して、正確な在庫や原材料等の金額を把握することです。
小売業では業者から仕入れた在庫商品、製造業では在庫製品や未使用の原材料等、飲食店では未使用の食材等が該当するでしょう。
これら棚卸により算出した在庫や原材料等を総称して"棚卸資産"と呼びます。
簡単に言うと、仕入れた材料や商品、製造した製品などで、まだ使用または販売されずに在庫として手元に残っている状態のものを指します。
例:期中で原価500万円分の商品を仕入れ、決算までに400万円分を販売した
500万円 - 400万円 = 100万円 ←棚卸資産
棚卸は、在庫管理や正確な売上原価の観点から言えば毎月実施するのが理想的ですが、かなりの労力が必要なため、決算時の一回でも問題ありません。
逆を言えば、どの会社でも最低でも決算時には必ず行う必要があります。
2.なぜ棚卸が必要なのか?

棚卸が必要な理由は主に2つあり、正確な売上原価の計算と、不良在庫等の管理(資金効率)です。
①正確な売上原価の計算
正確な利益状況を把握するため又は正確な税金計算をするには、棚卸は必要不可欠です。
原材料や商品を仕入れた時は、一旦は全てを"仕入"として経費に計上します。(その時点ではそれらがどれだけ使用されるか分からない為。)
ですが、その中には決算を迎えた時点で未使用(未販売)のものが含まれています。
未使用のものが経費に計上されたままでは、正しい利益や税金を計算することができません。
原材料、商品、製品などの原価は、販売された時点で初めて経費に計上することができます。
そのため、未使用(未販売)の在庫は「棚卸資産」として当期の経費ではなく資産として翌期へ繰り越されます。
このように棚卸を行うことで初めて正しい売上総利益(粗利益)を知ることができるのです。
売上原価と売上総利益(粗利益)は以下の計算式により算出されます。
《 期首棚卸高 + 当期仕入高 - 期末棚卸高 = 売上原価 》
《 売上高 - 売上原価 = 売上総利益(粗利益) 》
例:当期の売上が1,000万円、期首の在庫が100万円、期中の仕入が500万円、期末の在庫が150万円の場合
100万円 + 500万円 - 150万円 = 450万円 ←売上原価
1,000万円 - 450万円 = 550万円 ←売上総利益
②不良在庫の管理
常に棚卸資産を多く持ち過ぎていると、他の用途に使えたはずの資金を寝かすことになり、資金効率を悪化させてしまう原因になります。
在庫が少な過ぎるというのも良くないかもしれませんが、余分な在庫はその分だけ資金を放置していることになります。
資金繰りの改善やより良い経営判断のためにも、適正な在庫で回転率が良い状態にすることが非常に重要です。
セールや値引き等で過剰な在庫を素早く捌くための判断にも役立ちます。
3. 棚卸のやり方

業種によって棚卸の方法や対象物は異なりますが、基本的な実施方法について具体的に説明していきます。
①棚卸資産の対象物
例えば、以下の様な在庫が棚卸の対象になります。
家電量販店:メーカーから仕入れた家電製品など
スーパー:商社やメーカーから仕入れた食品など
八百屋:農家から仕入れた野菜など
車屋:販売用の車や部品など
美容室:シャンプーやカラー剤(薬剤)など
飲食店:食材や飲料など
②棚卸の計算
在庫数量をカウントしその数量に仕入単価を掛けて棚卸資産を算出します。
《 数量 × 仕入単価 = 棚卸資産 》
仕入単価は税込か税抜かどちらかに統一します。
なお、仕入単価の法定評価方法は「最終仕入原価法」となり、期末に最も近い時期に取得したときの仕入単価を、期末の棚卸資産の単価として評価する方法です。
期中の仕入単価がバラバラの場合でも簡易的に棚卸資産の金額を計算することができます。
③棚卸表の作成
Excelなどで「商品名」「数量」「単価」などが記載された表を用意しておき、そこに棚卸の実施の結果を記載して棚卸表を作成しましょう。
決算時に必要な他、税務調査の時にも必要になりますので、棚卸表は必ず保管しておきましょう。
棚卸表の決まった書式はありませんが、以下の様な表を使用されることが多いです。

4.棚卸資産が多いと決算で利益は減る?増える?

棚卸を実施したとして、その結果が実際に決算にどのような影響があるのかを把握しておかなければなりません。
仕入れた原材料や商品は、一旦は全てを仕入として経費に計上しますが、在庫は当期の経費にはならず、翌期に棚卸資産として繰り越されます。
例:前期末の在庫が150万円、期中の仕入が800万円、当期末の在庫が300万円の場合
期首棚卸150万円 + 当期仕入800万円 - 期末棚卸300万円 = 原価650万円
当期に800万円の仕入をしていますが、実際の売上原価は650万円となります。
前期末の在庫(期首棚卸)は当期の仕入にプラスされ、当期末の在庫(期末棚卸)は当期の仕入からマイナスされます。
つまり、当期末の棚卸資産が多ければ多いほど、当期仕入からマイナスされ、結果的に経費が減って利益が増えることになります。
ですが、この当期末の棚卸資産300万円は翌期の期首棚卸(前期末の在庫)になるので、翌期の仕入にプラスされて翌期の経費が増えます。
基本的にはこの繰り返しにより売上原価を計算しています。
5.期末にまとめて仕入をしたら節税になる?
残念ながら節税にはなりません。
計算式で表したように、未使用の在庫は棚卸資産となり翌期に繰り越されるため、当期の仕入からマイナスされてしまいます。
ただ資金効率を悪化させるだけの支出になってしまい意味がないので止めましょう。
6.まとめ
いざ決算を組んでみたら、「思ったより利益が出ている」「思ったより利益が出ていない」などの認識の差が出ないように、棚卸を理解し棚卸の数字も加味して計画を立てることが大切です。
それと、棚卸の実施漏れがないようにだけ注意しましょう。
棚卸について少しでも悩んだり不安があれば、まずはお近くの税理士にご相談を!
ご相談の方は以下よりお問い合わせください。
初回は相談無料となります。
※上記記事は令和6年10月時点の情報に基づいて記載しております。
※上記記事は一般的な内容を記載しているため判断の際は専門家へのご相談をお願い致します。
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