退職金の税金が優遇されているのは聞いたことがあると思います。
普段はあんなに税金や社会保険料が取られているのに、なぜ退職金は優遇されているのでしょうか?
退職金の具体的な計算方法や、具体的な活用方法も交えて税理士が解説していきます!
1 . なぜ退職金は優遇されているのか?
退職金は通常の給与と違い、退職する際の恩給的な意味で支給されるものであり、会社への長年の労務や功労の対価の一部の積み重ねであるとも言えます。
長年の勤労に対する報償として特別に支給されるものであり、退職後の生活の糧となる収入となるため、通常の給与とは区別され、税金の負担が軽くなるように配慮されています。
一般的には、退職金によりその後の生活を支えていくことが想定されますので、担税力(税金を負担する力)は弱いとされ、税制上優遇されています。
また、退職金は労働の対価ではないため、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険など)は課されません。
2 . 退職金の具体的な計算
退職金の計算は、"退職所得控除"や"分離課税"によって税負担が軽くなるように配慮されています。
具体的には以下の流れで計算します。
①退職所得控除の額の計算
退職所得控除とは、税金計算をする上で退職金の額から一定額を差し引くことができる所得控除です。
この退職所得控除により、実際に受け取った退職金額よりも低い金額で税金計算をすることができます。
勤続年数 | 退職所得控除の額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 70万円×(勤続年数ー20年)+800万円 |
例:勤続年数10年の従業員に対し300万円の退職金を支給した
40万円 × 10年 = 400万円
退職金300万円に対して400万円が退職所得控除額となり、退職所得は0円となるため非課税になります。
例:勤続年数30年の従業員に対し2,000万円の退職金を支給した
70万円 ×(30年 ー 20年)+ 800万円 = 1,500万円
退職金2,000万円に対して1,500万円が退職所得控除額となり、残りの退職所得500万円に対して税金計算を進めます。
②課税退職所得の額の計算
最終的に課税対象となる退職所得金額を求めます。
退職金は、上記①の退職所得控除を差し引いた後の残額をさらに1/2して税金計算をすることができます。
この最終的な1/2により、実際に受け取った退職金額よりもはるかに低い金額で税金計算をすることができます。
(退職金額 ー 退職所得控除)× 1/2 = 課税退職所得金額 |
例:勤続年数30年の従業員に対し2,000万円の退職金を支給した
70万円 ×(30年 ー 20年)+ 800万円 = 1,500万円
(2,000万円 ー 1,500万円)× 1/2 = 250万円
退職金2,000万円に対して1,500万円が退職所得控除額となり、さらに1/2をした250万円が課税対象の退職所得金額になります。
【勤続年数が5年以下は短期退職手当になるので注意!】
この×1/2の計算について、勤続年数が5年以下の役員については適用がありません。
また、役員以外の勤続年数が5年以下の従業員については、退職金額から退職所得控除額を差し引いた金額が300万円を超えたら、その超えた部分については適用がありません。
勤続年数が5年以下の場合は計算に注意しましょう。
③所得税額の計算
上記②で求めた課税退職所得金額に、所得税の税率を掛けて税額を計算します。
課税退職所得金額 × 所得税率 ー 控除額 = 退職金に係る所得税額 |
国税庁が出している以下の税額表をもとに退職金に係る税額を求めます。
例:勤続年数30年の従業員に対し2,000万円の退職金を支給した
70万円 ×(30年 ー 20年)+ 800万円 = 1,500万円 (退職所得控除の計算)
(2,000万円 ー 1,500万円)× 1/2 = 250万円 (課税退職所得金額の計算)
250万円 × 10% - 97,500円 = 152,500円 (税額の計算)
課税退職所得金額の250万円に10%を掛けて、そこから97,500円を控除した152,500円が、2,000万円の退職金に係る所得税額となります。
④住民税額の計算
上記②で求めた課税退職所得金額に、住民税の税率を掛けて税額を計算します。
課税退職所得金額 × 住民税率 = 退職金に係る住民税額 |
例:勤続年数30年の従業員に対し2,000万円の退職金を支給した
250万円 × 10% = 250,000円
所得税と違い、控除額はありません。
住民税は基本的に一律10%ですので、課税退職所得金額に10%を掛けて計算します。
⑤分離課税なので完了
退職所得は"分離課税"が採用されています。
分離課税とは、他の所得と合算することなく単体で税金計算が行われます。
たとえ事業所得や給与所得が多額にあったとしても、退職所得は別で計算されるので、退職金にかかる税金だけはゼロになる可能性もあります。
3 . 「退職所得の受給に関する申告書」を提出する
退職金の支払いを受ける際は、会社に対して「退職所得の受給に関する申告書」を提出する必要があります。
この申告書には、退職の理由や今まで受け取ってきた退職金の情報を記載します。
この申告書を会社に提出することで、適正な所得税額が源泉徴収され、本人が確定申告をする必要がなくなります。
源泉徴収税額の計算や短期退職者の場合の計算方法等は、今回は割愛させていただきます。
なお、この申告書を会社に提出しなかった場合、勤続年数や金額にかかわらず、退職金額×20.42%を源泉徴収されてしまいます。
本来の方法で計算した税額よりもはるかに高額の所得税が源泉徴収されてしまうため、取り戻すためには後で自分で確定申告をする必要があります。
4 . 退職金の具体的な活用方法
退職金として受け取ることで税制面で優遇されているため、できればと様々なものを退職金として受け取りたいものです。
ここでは、退職金として受け取れることが可能なものや制度について紹介します。
①小規模企業共済の共済金
小規模企業共済の共済金の受け取り方法は、一括か分割かを選択することができます。
一括の場合は"退職所得"となり、分割の場合は"公的年金等の雑所得"となります。
どちらも税制上の優遇はありますが、金額によっては退職所得として受け取ると税金がゼロになるかもしれません。
掛金の納付時は所得控除ができ、受け取り時は税金がゼロになれば、節税効果を最大限活かせます。
ただし、共済金を遺族が受け取る場合は相続税の対象になり、65歳未満の方が任意解約した場合は"一時所得"に該当しますので注意してください。
②確定拠出年金
確定拠出年金の受け取り方法は、一時金としてか年金としてかを選択することができます。
一時金の場合は"退職所得"となり、年金の場合は"公的年金等の雑所得"となります
どちらも税制上の優遇はありますが、金額によっては退職所得として受け取ると税金がゼロになるかもしれません。
掛金の納付時は所得控除ができ、受け取り時は税金がゼロになれば、節税効果を最大限活かせます。
なお、退職所得は他の退職所得がある場合は合算して計算する必要があるので注意してください。
③役員退職金
役員を退く場合、役員退職金として支給するケースが多いと思います。
役員のモチベーションアップや税制上の優遇の為に、役員退職金の支給も計画しておくと良いでしょう。
また、代表取締役が非常勤の会長等へ退く場合なども、役員退職金としての支給が可能です。ただし、実質的に退職したと認められる必要がありますので、運用には注意してください。
役員退職金についてはこちらの記事で詳しく解説しています↓
④有給買い取りの代わりに退職金
退職時に有給を使いきれないケースも多いかと思います。
そんな時、有給を買い取り給与に上乗せするケースもありますが、その買い取る金額を退職金として支給する方法もあります。
通常の給与として買い取り額を上乗せしてしまうと、税金や社会保険料がかかってしまいます。
そこを退職金として支給すれば、税制上の優遇も受けられ社会保険料も発生しないので、お互いにメリットがあります。
なお、この運用には労務の観点から注意しなければならない事項もあるので、詳しくは社会保険労務士に相談しましょう。
5 . まとめ
退職金の税制上の優遇を理解しうまく活用すれば、会社にとっても従業員にとってもメリットがあるかもしれません。
共済制度などは退職金として受け取れるものも多いので、どの受け取り方が一番メリットがあるのか検討してみるのも良いでしょう。
ただし、今後はこの退職金の税制上の優遇についにメスが入ろうとしていますので、最新の情報は逐一発信していきます!
ご相談の方は以下よりお問い合わせください。
初回は相談無料となります。
※上記記事は令和6年12月時点の情報に基づいて記載しております。
※上記記事は一般的な内容を記載しているため判断の際は専門家へのご相談をお願い致します。
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